[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

八月最後の星の夜

















 「莫迦者!」
 部屋に飛び込んで来るなり、ルキアは開口一番そう怒鳴った。
 乱暴に開けた扉を閉めもせず、肩を大きく上下させて激しく息を切らしている。
 「……何が?」
 二十三時十一分。
 自室の時計を横目で見やりつつ、恋次は問い返した。若干の期待を胸に隠して。
 「何がではない! この莫迦者!」
 もう一度本当に怒った顔で繰り越し
――彼女はずかずかと上がり込むと、彼の胸倉を摑んだ。
 「何故何も言わなかったのだ! 朝と昼、二度も会ったのに!」
 「だから何を」
 彼女の頬を伝っては流れ落ちる汗を眺めて、恋次ももう一度繰り返す。わざと、極めて平静に。
 「誕生日だ、誕生日!」
 そんな調子の彼の眼前に、ルキアは苛立たしげに自分の伝令神機を突き付けた。
 そこに表示されていた文字は
――八月三十一日二十三時十二分。
 今日の日付と今の時間。
 恋次の誕生日の。








 「俺は別に忘れてたわけじゃねえよ」
 ルキアに手拭いを放ってやりながら、恋次。
 「オメーこそ忘れてたんじゃねえか。冷てぇ奴」
 「わ、忘れていたのではない!」
 相当急いで走って来たのだろう。滴る汗を拭いながら、ルキアは慌てたように否定した。
 「ただ、今日の日付を失念していただけだ。さっき気が付いて
――
 ルキアは現在、霊力回復の為静養中だ。
 と云っても、ただ屋敷で休んでいても仕方がないので、自ら申し出て、隊の雑務を引き受けている。事情聴取もまだ完全には終了していない。これからの対応策を立てるのにも、ルキアからの情報は必要だ。
 そんなわけで、彼女はなかなかに慌ただしい日々を送っており、ここのところずっと日付を気にする余裕がなかったのである。
 「お前がさっさと言わぬからではないか。朝も昼も、何か言いたそうにしていると思えば
――
 手拭いをいじりながら、ルキアはばつが悪そうに、けれども少し恨みがましい目で、背の高い恋次を睨め付けた。
 朝、ルキアと白哉が共に出勤しているところに、恋次も偶然出くわした。
 昼、ルキアが十三番隊からの書類を六番隊執務室に届けに来た。
 今日は二回も、二人は顔を合わせていたのである。
 そのどちらとも、恋次はルキアからの祝いの言葉を期待していたのだが、彼女は短い会話を交わしただけですぐに去ってしまい、彼の誕生日については一切触れて来なかった。何の素振りすらなかった。
 わざとそう振る舞っているのではないか、もしかしたら仕事の後に何かあるのではないか……
 恋次は希望を捨てられず、ずっと何をするにもそわそわと待っていたのだが、待ち人は一向に姿を現さない。
 非情にも時計の針は進み続け
――もう諦めかけた頃、突然ルキアが部屋に乗り込んで来たのだ。まるで道場破りのような勢いで。
 「イヤ、だって、自分から言うのもなあ……」
 恋次は今度は水の入った湯呑みを手渡してやりながら、言う。
 「そのまま過ぎてしまうよりは余程マシだ。この大莫迦者」
 素直に受け取って、ルキアは更に繰り越した。
 「言ってくれておれば、美味い鯛焼きを特注しておいたのに」
 「……何でみんな俺と言やぁ鯛焼きなんだよ」
 「飽きたのか?」
 「まさか。鯛焼き最高」
 「なら良いではないか。というか話を逸すな」
 一気に水を飲み干して
――手の中に視線を落とす。
 何処かしょんぼりしたような、拗ねたような、そんな声音で、
 「お前が言わぬから
――お陰で何も用意していない」
 「いらねえよ」
 「しかし……」
 「いいって」
 「…………」
 ルキアは納得のいかない様子で、口の中で何やらぶつぶつ言っている。
 彼女のそんな様子を、恋次は愛しさに顔がにやけそうになるのを堪えて眺めていた。
 その気持ちが嬉しい。だが本当に贈り物はいらない。
 それよりも、もっと欲しいものがある。
 恋次はルキアの傍を離れると、部屋の端に移動し、
 「……今夜は暑ぃな」
 開け放した窓の枠に凭れて、空を見上げた。天気は、晴れ。
 (よし)
 見えないように、小さく右の拳を握る。
 「ああ、暑いぞ。風呂に入ったばかりだったのに汗だくだ。お前の所為で」
 「いや、そうじゃなくて……」
 「は?」
 「……こっち来いよ」
 「……?」
 ルキアは怪訝そうに瞬きをしたが、空になった湯呑みを卓袱台に置き、言われた通りにした。
 「……風など無いではないか」
 窓際の方が涼しいからかと思ったらしい。不満げに眉根を顰め、
 「それより、もう一杯水が欲しいのだが……うわっ!?」
 向き直りかけて、裏返った悲鳴を上げる。恋次の肩に突然担ぎ上げられたのだ。
 「な……っ!? ちょっ……」
 混乱するルキアを無視し、恋次は窓枠に足を掛けた。
 ちらりと再度時計を見やる。二十三時二十分。
 それを確かめると、恋次は勢いよく外に飛び出した。








 「星、綺麗だな」
 邪魔する灯りが殆ど無く、目が暗闇に慣れてくると無数の星々が見える。
 適当な屋根の上に腰を落ち着けて、恋次は気持ち良さそうに伸びをした。
 「……座らねえのか?」
 近くで突っ立ったままのルキアに、尋ねる。
 彼女は心底疲れた体で、口を開いた。
 「……何なのだ、一体……」
 「高いとこ好きだろ?」
 「それはそうだが……いきなり意味が分からぬ」
 「いいから座れって」
 ぽんぽんと、屋根板を叩いて自分の傍らを示す。
 ルキアは何か言いたそうにしていたが、やがて諦めたように大きな溜息を吐き出すと、その場所に腰を下ろした。
 「綺麗だろ? 星」
 指差された空を眺めて、こくりと頷く。
 明るい星。暗い星。瞬く星。瞬かない星。それらが競うようにひしめきあって煌いている。
 実際、見事な星空だった。
 
――ルキアは知らない。恋次のその言葉の奥に、どんな想いがあるのかを。
 「……で?」
 「え?」
 「それで?」
 「……こちらの台詞なのだが……」
 滲む苦悩を隠しもせず、ルキアは呻いた。
 「脈絡もなくこんな処に連れて来て、何だと言うのだ。本当にお前は
――
 「俺の台詞だよ」
 彼女の文句を遮って、恋次は続ける。
 「日付に気付いて来たんだろ? で?」
 「あ……」
 恋次の言わんとしていることが、ルキアにも分かったらしい。整った顔から怒りと呆れを引っ込めて、視線を泳がせる。
 「…………」
 しばしの沈黙。
 辛抱強く、恋次は待った。彼女の横顔を見つめたまま。
 「……えっと……その」
 ややあって、ルキアは気恥ずかしそうに、いつもより小さな声で呟いた。
 「……誕生日、おめでとう」
 「……どーも」
 四十年ぶりに聞けた言葉に、恋次は心から満足して破顔した。








 「……もう帰らねば」
 立ち上がろうとしたルキアを、恋次は腕を摑んで制した。
 「もう少しいいだろ」
 「しかし、一応は用も済んだし……隊舎に忘れ物をしたとしか言わずに飛び出して来たから……心配する」
 困惑しつつも、ルキアは摑まれた腕を引く。
 しかし、恋次は手を離さなかった。
 彼女の瞳から視線を逸らさずに、静かな、けれども強い声音で言う。
 「まだあと三十分は今日だから」
 一瞬の躊躇い。
 「…………そうだな」
 仕様の無い奴だとルキアは優しく目を細めると、改めて彼の傍らに座り直した。
 二十三時三十分。




 「綺麗だな、星」
 輝く、満天の星。
 
――ルキアは知らない。この光を、恋次がずっとどんな想いで見て来たのかを。
 ただ胸を締め付けるだけのものでしかなかった、切ない星空。
 それを今、こんなにも穏やかな心で見つめていられる。
 その喜びを。
 望み続けた星は、今、自分の隣にある。
 その幸福を。
 「ああ。綺麗だ」
 
――ルキアは知らない。だが、その星明かりの中、柔らかに微笑んで、そう言った。
 彼の本当の星は。




 手を、伸ばそうか。




 二十三時三十五分。
 八月最後の星の夜。






































アホのように長いあとがき>


恋次ハピバSS。現世組が帰った後のお話です。
私にしては珍しく、ヘタ恋次じゃありません! 
恋次さん、頑張ってます! 優位です! ルキたんを自分のペースに巻き込んでます! いつもと逆です!
私の恋ルキは、どっちかがひたすらマイペースになって、片方を振り回さなければ気が済まないようです。何ででしょう(苦笑)。


これは、半年か1年位前(何そのアバウトさ!)に、輪郭だけ浮かんで、時々ふわふわ妄想してたもの。
とりあえず、タイトルだけ付けて。
(私は割と早い段階でタイトルを決めます←だって色々不便じゃないか。
反対に半平太は、何年経とうが、話す時困ろうが付けません←「○○(キャラ名)のヤツ」とか言っても、同じ 名前のキャラが何人もいるので大層不便です←何とかしてー!)
で、そのふわふわが、7月中旬に急に具体的に降りて来て、忘れないように携帯にチマチマ打ち込んでた(やるよね!?)わけです。
手ェ攣りそうになりながら。
(でも携帯って、ずっと打ってたら充電すぐ無くなるし、小説書くには向いてませんよね。画面小さいから、推敲しようにもよく分からないし。
モバイル欲しいな。でもお金ないな/爆)
「俺のハピバに書きやがれ」って、恋次さんからの電波でも受信してたんでしょうか(笑)。
でも「書きたいなー」のまま止まってる話はいっぱいあるので、ちゃんと実現出来て嬉しいです♪


それから、ほのぼので幸せな恋ルキが書きたかったんです。んで、とにかく二人を会話させたかったんです!
時の鍵」で、ほのぼの書いたけど、会話してないもんなぁ……
自由の空」は会話してるけど、切な系だし……


それからそれから。
これは、「」と繋げてるつもりなのです。
あれはあえてああいうエンドにしちゃったから、また星を使って、幸せに結びたかったの。


本当は、朝、恋次が日めくりカレンダー(あるのか?)めくるとこから始まって、一喜一憂しながらそわそわ過ごした1日を書くつもりだったんですが。
これでも別にいいかな。コンパクトだし。(二次創作は量も文もコンパクトに、を心掛けてます)


しっかし。
好きな女を星に例えるなんて、恋次ってば随分なロマンティストですよねぇ……
何だかんだ言って、男の人の方がロマンティストなんでしょうか。
ラブソングも、男性が書いた歌詞の方が自然にロマンティックな気がする。


ところで、尸魂界と現世、季節はズレてるんでしょうか。日付はどうなんでしょうか。
16巻で雨竜がモンシロチョウ見て「尸魂界は今春なのかな」とか言ってたのが、ずっと引っ掛かってるんですけど……(汗)。
尸魂界篇はちゃんと8月なのか。そしてちゃんと夏なのか。
分かんないから日付は同じにしちゃいました。そういう解釈で読んで下さいm(_ _)m。
季節は……夏のイメージだけど、あんまり言及せずに曖昧にしたつもり……
夏にしろ違うにしろ、暑い夜ってあるよね☆(死)


生活も仕事も曜日で動いてて、今日が何日かパッと出て来ない・忘れちゃう……ってこと、結構ありますよね?
ルキたんに起こったのも、それと同じ事象です。
イヤ、曜日もあるのか無いのか、分からないんですけどね(^_^;)。


実は、この話にはオマケの後日談があります。
秋に拍手のお礼を追加したいと思っているので、そちらにアプしたいな、と。
予定なんでズレる可能性もありますが、よかったら気長にチェックしてやって下さいね♪


この背景の星空も、「自由の空」と同じく泉がデジカメで撮影したものです♪(加工は半平太が頑張ってくれました。ありがとう(>_<)!
初の星写真&ペルセウス座流星群のピーク日でした(キレイでしたよv)
ページ構成も「自由の空」と同じように。「」だけじゃなく、「自由の空」とも繋がってるのかも☆
そう考えたら、「時の鍵」も全部ですね(^^)。




ところで、私も恋次と同じく8月生まれでして。先日誕生日でした~。一番のプレゼントは「時間(歳)を止めて下さい」だけど☆(爆)

誕生日といえば、話は長くなりますが、相方の半平太はちょっと凄いですよ!
もう10年以上の付き合い、しかも滅多に会えないならともかく、しょっちゅう会って、メールのやり取りも頻繁にしてるのに、毎年見事に忘れ去ってくれやがります。
別にそんなに覚えにくい数字並びでもないと思うんだけど。
あんまり忘れられるので、ある年は「今日は何の日?」ってこっちから訊いたり、色々やってみてます(笑)。

一昨年は、敢えて当日はスルーして、日付変わってから別の用事ついでに「ところでわざとか? 天然か?」ってメールの文末に足したら、
「ん? すみません……何の事でしょう……m(_ _)m」
マジですよこの娘っ子。どうしてくれようか……とか唸ってたら、3分後、
「ギャース! ええとすみません! 謝りますm(_ _)mm(_ _)mm(_ _;)m」
あ、気付いた。でも、「おめでとう」の「お」の字も無いよスゲー。
更に4分後、
「申し訳ございませんm(_ _)m。遅ればせばがら…Happy Birthday!! あああ、ホントのホントにすみませんm(_ _;)m 祝いながら謝るって何だー! ホントすみませんm(_ _;)m」
謝罪の方が多いよ。何かメッチャ謝ってるよ。ハピバじゃなくてソリバだよ。ソーリー・バースデーだよ。
もういっそ出会った15歳のままで留めといておくれよ。

去年は、UVERworldのライブチケットの件で電話までしてたのに、何もナシ……
でも、その数時間後メールが来て、
「パソが壊れたかも……イヤ―――!!<(;◇;)>」
……駄目だこの人。私よりもUVERとパソコンの方が大事か……いや、そうね? そうだろうけどもね? でもね、もっと何て言うか……ね?
翌日になっても思い出す気配がないので、2日後に私から言ったら、
「ハピバ!って、うわもう星の彼方だ! すみません、堂々の無視で!<(~□~;)> ギャア!」
何ですか君は。レコードでも狙ってんですか。何のタイトルだい、それは。

こんな調子で、今年。
「きっと今年もナチュラルにレコード更新する気だわ……てか既にチャンピオンだけどな」と、それならそれでネタにする気満々な私。
脳トレの川○教授に一番にハピバ言われ(笑)、メガネ屋さんから営業ハピバ電話が入り(いえ大事ですよ、そういうの)、むしろ忘れて欲しい人から今年も言われ(爆)、厄介なメールに「何でよりによって今日!?」と嘆き……「何だこの誕生日」と、ちょっとわびしい気持ちで夜に。
そこへメル着音が! 半平太……なワケありません、Rちゃんです! 毎年欠かさずにメールくれる中1からの大事なお友達です!
途端にドカーン!と癒されました☆☆ ありがとうRちゃん! 巻き返し誕生日~♪
満足して誕生日を終えようとしていたら、突如鳴り響く、半平太専用メル着音。
……イヤイヤイヤ。一瞬喜んじゃったけど騙されないよ。どうせ別の用件さ……開くのちょっとドキドキしてるけど、それはだね……
「ぱぴばすでー♪ お誕生日おめでとう☆☆」
奇跡だ! 私は奇跡を見た! 奇跡の文字列がここに並んでいるぞ! 一体奴はどうしたんだ!? 何が起こった!?
「べ、別に本当は喜んでなんかないんだからね! 誕生日なんてめでたくも何ともないし! でも礼節としてお礼言ってるだけなんだからっ!」 
と、絵に描いたようなツンデレで返信しました(笑)。
……って何かいい話になってるし!(でも結局ネタにする/苦笑)


いえいえ、ホントに想像以上に嬉しかったですよ。更に癒されましたもの。巻き返し誕生日プラス~♪♪
カウントが増えるのは嫌だけど(歳を取ることより、相応の自分になれてないのがね;)、「おめでとう」って言ってくれる、その気持ちは掛け値無しにすっごく嬉しいし、励まされますよね(^_^)☆

だから恋次もルキたんに祝って欲しかったんだろうし、喜びもひとしおだと思いますよ☆(←そこ来るまで長かったな!)



というわけで。
恋次、誕生日おめでとう――\(^o^)/☆☆
心ゆくまでルキたんに祝って貰いなさい♪
うん、手を伸ばすが良いよ! んでもって抱きしめちゃったりするが良いよ!(>_<)
















(update:2007/08/31)






back