甘い毒、あたたかな雪






 ……どうしようか……
 十三番隊執務室の外に植えられた高い木の上で、死覇装の少女は迷い続けていた。
 整った柳眉。細い肩で流れる艶やかな黒髪。何処か品のある、深い紫色の双眸。
 誰から見ても『美少女』の部類に入る彼女は、しかし今、その折角の面(おもて)を憂いに曇らせていた。
 視線を落とし、もう何度目になるか分からない溜息を漏らす。
 膝の上にある、綺麗な布で丁寧に包まれた、小さな箱。
 その端をきゅっと握って、少女
――朽木ルキアは力無く呟いた。
 「……『ばれんたいん・でー』、か……」




 今日は二月十四日。
 現世でいうところの『バレンタイン・デー』である。
 
――現世ではこの日、女は想い人に『ちょこれーと』を贈り、告白をしなければならないらしい――
 尸魂界で最初にそれを言い出したのは誰であったか。
 ルキアがそれを耳にしたのは、今から約二週間前、とある集団任務の後の、女子更衣室でのことだった。
 「ね。あの話、どうすんの?」
 「ああ、アレ……。あたしはいいわよ。わざわざフラれたくないもん」
 「そんなの分かんないじゃん。それにさ、こんな機会でもなきゃ、なかなか告白なんか出来ないと思わない?」
 恋する女は、他者の恋愛譚にも敏感になるものである。
 「ねぇねぇ。それ、何の話?」
 二人の話を聞きつけた別の女性死神達が、会話に加わる。
 「知らない? 『ばれんたいん・でー』」
 「『ばれんたいん・でー』?」
 「そ。現世の習慣。何でもね、あっちじゃ二月十四日は、女が好きな人に『ちょこれーと』を贈って告白する日、って決まってるんだってさ」
 「告白するのが決まってる日!?」
 「そんなのがあるの!?」
 「っていうか、『ちょこれーと』って何?」
 たちまち、更衣室はその話題でもちきりになった。
 そう、恋する女は、この手の話には目がないものなのだ。
 無論、ルキアも例外ではなく
――興味のない振りをして黙々と着替えを続けていたが、自然と耳はそちらを意識していた。
 「ふうん……『ばれんたいん・でー』ね……」
 「面白そうでしょ? みんなでやろうよ! 内緒で計画進めて、男子達を驚かせるの!」
 賛成、反対、躊躇いの声が、賑やかに混ざり合う。
 「それにね、もし『ちょこれーと』贈らないと、嫌われるらしいんだよ?」
 髪を梳いていたルキアの手が、ピクリと止まった。
 ……告白しないと、嫌われる……?
 「嘘!? 何で!?」
 「分かんないけど……『ちょこれーと』をあげない、つまり好きじゃない、即ち嫌いってことになって、結果嫌われる……とかかなぁ……?」
 「ええー! やだあ!」
 「でも、現世のハナシでしょ? コッチじゃ関係ないんじゃない?」
 「かもしんないけどさ。何か気持ち悪くない? 失恋した時、『あの時ちゃんとしなかったせいだ』とか思いそうじゃん」
 「……それはあるかも……」
 「じゃあ、相手にもう彼女がいる場合は? みすみす振られに行くの?」
 「嫌われるか、フラれるか、どっちかってこと!?」
 究極の二択に、女性死神達は騒然となる。
 「大丈夫! 『義理ちょこ』っていい手があんの!」
 それを塞き止めるように、先刻から説明をしていた少女が、一際明朗な声をあげた。周囲の関心が、より一層高まる。
 「『義理ちょこ』?」
 「うん。好きな人だけじゃなくて、父親とか、友達とか、普段お世話になってる人とか。そんな人にもあげるんだって。それが『義理ちょこ』。ちなみに好きな人のは『本命ちょこ』」
 「『義理ちょこ』と、『本命ちょこ』……」
 「そっ。だからね、ホントは本命なんだけど、義理って偽ってあげるのもアリなんだってさ。『偽装義理ちょこ』ってとこ?」
 「なるほど……とりあえずそうしとけば嫌われないで済むんだ……」
 「そゆこと! ね、だからみんなでやろうよ!」
 恋する女は、この類のイベントが好きなものである
――かくして、女性死神達の一大プロジェクトは始まった。
 男子禁制の格好の場、女子更衣室はその拠点となり、誰が作ったのか概要を説明する貼り紙が壁に留められ、何処から調達して来たのか、バレンタインの特集が組まれた現世の雑誌が何冊か常備され、これまた何処から調達して来たのか、チョコレートの材料を売り買いする即席マーケットと化した。
 更には、共同台所を借り切って、秘密のクッキング教室まで開かれる始末だ。
 そんな浮き足だった雰囲気の中
――ルキアは一切無関心を決め込んでいた。
 下らない。現世の習慣など関係ない。そんなもの興味はない。
 そう考えて
――正確には自分にそう言い聞かせて、日々死神の仕事に勤しんだ。
 だが、恋心は正直だ。
 周りの女性達の士気が高まるにつれ、二月十四日が近付くにつれ、バレンタインのことで頭がいっぱいになっていった。
 ――贈らなければ、嫌われる
――
 特にそれが引っ掛かっていたのだ。
 「知らぬ」「知らぬ」と胸中で繰り返しながらも、誰もいない時にこっそり雑誌に目を通して知識を取り入れ、任務で現世に赴いた折、単独で材料を入手し――前日の深夜には、使用人のいなくなった厨房に忍び込み、しっかりチョコレートを作ってしまっていた。
 (……全く、私も単純な……)
 ここ数日の自分の行動を思い返し、ルキアはまたひとつ溜息をつく。
 箱を見つめていると、昨夜味見したチョコレートの味が舌に甦ってきた。
 上手く作れたかどうかは分からない。何せ、一度も食べたことがないのだ。
 美味しいのかどうかもよく分からなかった。不味いとは感じなかったが、変わった味がした。
 ただ、不思議な程に、それは甘かった――とろけるように。
 ルキアは眼下に視線を移した。
 十三番隊執務室。
 海燕は今、浮竹隊長とそこにいる。
 だが、もうじき仕事も上がり、帰宅する時間だ。
 渡すなら、今しかない。
 別に、何もそんなに深刻に考える必要はないのだ。
 想い人だけでなく、日頃世話になっている者や友人に感謝の意を込めて贈ることも多いと、確かにそう聞いたではないか。
 「常日頃のお礼」と称して、渡せばいいだけなのだ。
 告白するつもりなど元よりないし、実際いつもとても世話になっている。そして、心から感謝している。
 まるでカモフラージュのようだが、それは決して嘘ではない。
 同じく世話になっている浮竹隊長の分も、ちゃんと用意してあるわけだし――……
 (………………)
 そこで、ルキアの思考は止まった。
 ここまでは、既に何度も考えた。
 問題はこの先だ。
 後はもう何もない。実行に移すだけ。
 分かっている。
 しかし――どうしても勇気が出ない。動けない。
 (……………………)
 ……やっぱり、よそう……
 情けない、と思いつつも、諦めて箱を懐にしまおうとした、まさにその時――
 「浮竹隊長――っっ!!!!」
 「!?」
 突然響いた大声に、ルキアはびくっと体を震わせた。
 驚いた拍子にバランスを崩し、木からずり落ちそうになる。
 咄嗟に幹に掌をつき、それは何とか堪えた。が――
 「あ……っ」
 箱の方は、そうはいかなかった。
 悴んだ指先をあっけなくすり抜けて、鳥が逃げ出すように、地面に落ちていく。
 慌てて手を伸ばすが、間に合わない。
 想いを閉じ込めた箱が遠くなるのを、紫の瞳はただ見ていることしか出来なかった。




 「浮竹隊長――っっ!!!!」
 清音と仙太郎は無意味に大きな声で叫びながら、二人同時に執務室に飛び込んだ。
 「はっぴー・ばれんたいん――!!!!」
 そして声を揃えて、やたら派手に包装された箱を浮竹に差し出す――というより、勢いよく突き出す。
 「……は?」
 書類を片付けていた浮竹と海燕は、こちらも疑問の声を揃えた。
 「ご存知ないですか、隊長! 今日は現世では『ばれんたいん』という、尊敬している方に贈り物をする日なのであります!! さあ、自分の気持ちを受け取って下さい!!」
 「ちょ…っ! ――隊長! 正しくは女の子が、です! だから小椿のは受け取らなくていいですから! つまらないものですが、自分のをどうぞ、隊長!!」
 「ウッセーぞ清音! そりゃ日本だけで、元祖欧米ではどっちからでもいいんだよ! このハナクソ女!」
 「何でそんなに詳しいんだよっ!? ってかそもそも、何で男のあんたがこの話知ってるわけ!? 女性死神のシークレットサプライズ計画なのに!」
 「へへーん! この俺様の隊長尊敬センサーが嗅ぎ付けたのよ!」
 「意味分かんないわよ! このシメナワハチマキ猿!」
 「隊長への尊敬の念をアピールする絶好の機会を逃してたまっかよ! まあ、俺こそが誰よりも隊長を尊敬してるってことだ!」
 「はあ!? あんたなんかより私の方がずっと隊長のこと大好…いやっ、尊敬してるわよ!!」
 「ああ!? 今日こそやるか!? この猿マネ女!!」
 「こちらこそ!! 望むところよ!!」
 「だ――!! うるせー!! オメーらちょっと黙れ!!」
 放っておくと永遠に終わりそうもない二人の口喧嘩を、海燕が力の限り怒鳴って遮った。
 ついでに机を叩いた時、書類が何枚か飛んだが、気にしない。
 「副隊長が一番うるさいです」
 二人のツッコミも完全に無視。
 呆気に取られたままの浮竹の傍らで、ぞんざいに腕を組みながら、
 「ったく、相変わらずウゼー二人だな。で? 結局何なんだよ?」
 「だから、『はっぴー・ばれんたいん』です」
 「んだから。それは何なんだよ?」
 尋ねられ、仙太郎が自分の知っているバレンタインについて説明する。
 どうやら彼には間違って伝わっているらしく、それには本来の『好きな人に』『本命』という箇所がすっかり抜け落ちていたが、知られてしまうと困るので、清音はあえて訂正しなかった。
 「……つまり、尊敬してる人や世話んなってる人に感謝する日、つーことだな?」
 「はい」
 「で? 何を贈るんだ?」
 今度は清音が答える。
 「現世の西洋の食べ物です。確か……ち、ちよ……」
 「千代子?」
 「そう、それ!」
 どうやら、清音にも間違って伝わっているらしい。
 「何で女の名前なんだよ……?」
 不審も露に海燕は呟いた。
 何やら詳細はよく分からないが、現世の流行を真似したということなのだろう。そういったことは別段今に始まったことではない。今回は、西洋風お中元・お歳暮と言ったところだろうか。
 「尊敬してる人や世話んなってる人に、ねぇ……」
 「はい」
 復唱する海燕に、こくこくと頷く二人。
 「……俺には?」
 「ありません」
 きっぱりと言われ、海燕は心なしか半眼になった。
 「まあ……予想はついてたし、いいけどよ……」
 副隊長の冷たい視線など何処吹く風。質問が終わったと察するや否や、二人は浮竹の方に向き直り、
 「では、話を戻して隊長! 自分のを受け取って下さい!!」
 「いいえ、自分のを、隊長!!」
 激しく熱い、いや暑苦しいアプローチを再開する。
 「あー、ええっと・……」
 浮竹は困り顔で、ひとしきりふたつの箱を眺めた後、
 「ありがとう。二人とも、有り難く頂くとするよ」
 穏やかに微笑して、両方を受け取ると返事した。
 まあ、それが無難だろう。
 「えー!?」
 しかし、二人はそれでは納得しなかった。
 「なら隊長! どちらがより“隊長を尊敬してます度”が伝わるか、判定して下さい!!」
 「は、判定?」
 「そうです! もちろん自分の勝ちに決まっていますが、今日こそ小椿とは決着をつけたいんです! いいわね、小椿!?」
 「おうよ! お手数ですが、お願いします! 隊長!!」
 「い、いや。実はまだ重要書類が山積みで……」
 「隊長!!!!」
 ずいっと机に乗り掛からんばかりの勢いで、浮竹に詰め寄る二人。
 「気が合うんだか、合わないんだか……」
 ほとほと呆れて、海燕は肩で大きく溜息をついた。
 「か、海燕。助けてくれ」
 浮竹が小声で切実に救援を求めて来る。が、海燕の答えは無情だった。
 「無理ですよ。無茶言わないで下さい。いっそ吐血でもしたらどうです?」
 「それこそ無茶言うな!」
 「隊・長!!!!」
 更にずずいっと詰め寄られ――無意識に椅子ごと後ろに下がるが、しかし退路などは何処にもない――本気で窮地に陥っている浮竹を横目に、「今日はもう仕事になんねーな」と、海燕は帰り仕度を始めた。




 そんな喧騒をよそに――
 (……やはり割れている……)
 木から下り、恐る恐る包装を解いて中身を確認したルキアは、砕けたチョコレートを見て、冷え切った肩を落としていた。
 渡さないと決めた。だがそれでも、落胆せずにはいられなかった。
 角の潰れた箱を、細い指でなぞる。
 (……海燕殿……)
 バラバラになったチョコレートは、まるで自分のように思えた。




 「……ったく、あいつらは……」
 執務室の扉を後ろ手に閉めて、海燕は頭を掻いた。
 清音と仙太郎の罵り合いに混じって、「待てー!」とか「裏切り者ー!」とか別の声が聞こえて来るが、付き合っていられない。
 「……寒ぃな。雪でも降んのか?」
 独りごちて、外に目をやり――
 「ん?」
 木々の間の地べたに座り込んでいる、見知った少女を見付ける。
 「朽木?」
 その華奢な後ろ姿は、何故だかいつもよりも小さく見えた。




 「何やってんだ? 朽木」
 「ひいっ!」
 突然耳の真横で声がして、ルキアは文字通り心臓が飛び出る程驚いた。
 「かかか、海燕殿!?」
 「『ひぃ』記録、本日も更新。つーかそんなにビビらんでも」
 「か、海燕殿がいつも驚かせるからです!」
 「んで、何してんだ? こんなとこで」
 「あ、いえ、その……」
 口籠るルキアが次の言葉を見付けるよりも早く、海燕は微かに漂う甘い香りに気付いた。
 「何だ? それ」
 小さな膝の上の箱を指差して、尋ねる。
 「あ……これは、その……」
 言い訳を探しながら、ルキアは包んでいた布の端をそっと箱に被せた。
 こんな無様なチョコレートを見られるのは恥ずかしい。かと言って、今更明らさまに隠すことも出来ない。
 情けなくて、泣きたい気分だった。
 「……おやつです」
 「おやつ?」
 「はい。小腹が空いた時にでも食べようかと……」
 「へえ。オメー、菓子作りとかすんのか」
 「いえ、たまたま気が向いたというか……」
 「何か、割れてるみてーだけど」
 「……木の上から落としてしまいまして……」
 「また木ィ登ってたのか。ほんと、高いとこ好きだな。いーけど、気を付けろよ?」
 「……はい」
 あまりに自然な彼の優しさは、嬉しく、また切なかった。
 「なあ、それ、何つー菓子? 初めて見るけど」
 「え……」
 質問され、不意打ちを食らったように戸惑う。
 『ちょこれーと』。今日という日に、好きな人に贈る、特別な食べ物。
 その名を口にするのは、想いを告白するのと同義の気がして――
 「名前は……忘れました」
 咄嗟に、そんな嘘をついた。
 「ふうん……」
 目を逸らして答えた様子は、きっと不自然だったに違いない。だが、海燕は特に言及しなかった。
 つくづく勇気のない自分が厭になる――俯いたまま顔を上げられないでいるルキアの視界に、すっと手が伸びてきた。いつだって彼女を導いてくれる、その大きな手。
 「……どれ」
 「あ……っ」
 布の隙間からチョコレートを一欠片つまんで、止める間もなく口に運んでしまう。
 受け取られることのない筈だった、その想いの欠片を。
 「……変わった味だな」
 ただただ驚いているルキアの胸中を知ってか知らずか、海燕は不思議そうに感想を述べる。
 「……ええ」
 「けど、美味いな」
 「……え……?」
 美味い――
 「なあ。もう少し貰っていいか?」
 そう訊かれても、ルキアはまだぽかんとしたままだった。
 「あれ? もしかして駄目だった?」
 「ああ、いえ! ……どうぞ」
 顔を覗き込まれ、ようやく我に返る。
 「そか」
 海燕は笑うと、彼女の隣に座って、チョコレートを食べ始めた。
 (…………)
 意外だった。てっきり口に合わなかったのだと思ったのに。
 美味しいと言って貰えることが、こんなにも嬉しいなんて――
 「……オメーは食わねーのか?」
 「いいえ、私は……」
 だってこれは、貴方の為に作ったものなのだから。心を込めて。
 「一緒に食おうぜ。何か俺が取ってるみてーじゃねえか」
 言って、海燕はなるべく大きい欠片を選ぶと、ルキアの方に差し出す。
 「……はい……」
 だが、こういうのも悪くない――……
 ルキアは素直に彼の言葉に従った。
 少し齧っただけで、口の中いっぱいにその魅惑の味が広がる。
 「甘いな」
 「……はい……」


 甘い。
 彼の言葉も、笑顔も、優しさも、この胸の高鳴りも――とても甘い、毒。
 一度味わってしまったら、もう抜け出せない。


 「うお。これ溶けんのか」
 「ええ。そのようです」
 慌てて、指先に付いたチョコレートを舐める海燕。
 まるで子供か猫のような仕草に、ルキアはくすくすと笑声を漏らした。
 「こら、笑うなよ。つーか何でオメーは溶けてねーんだ」
 「すみません。海燕殿は体温が高いのではないですか?」
 「普通だと思うけど……あ」
 「?」
 「オメー、ここ付いてんぞ」
 瞬間。
 何が起こったのか分からなかった。
 海燕の指が、ルキアの顔に付着したチョコレートを拭ったのだ。
 彼女の唇に触れるか触れないかのところを。
 「人のこと笑えねーな」
 少し意地悪そうに笑って、その指も軽く舐める。本当に、あまりにも自然な動作で。
 「――――
 とくん、と、確かに心臓の音を聞いた気がした。
 どうしよう。顔が赤らんでいく――……
 「お」
 ルキアが思わずまた俯いてしまったのと同時に、海燕は突然立ち上がり、空を見上げた。
 「雪だ。やっぱり降ってきたな」
 いつの間にか厚くなっていた雲から、ひらひらと雪が舞い降りてくる。
 天の助けだ。
 これなら顔が赤いのも、雪の所為に出来る。
 「本降りになる前に帰ろうぜ」
 彼女の方に向き直って、手を差し出す。摑まれということなのだろう。
 丁度空になった箱を急いで布に包み直して、ルキアは無言のまま彼の手を借りた。
 「……今度は雪だな」
 呟き、ルキアの漆黒の髪に飾りのように咲いた、白銀の花を撫でるように払う。
 「…………」
 信じられない。
 こんなことを、何の他意もなく、計算もなく、平気でするのだから――……


 ――身体が、熱い――


 「もう暗いし、送ってってやるよ」
 「い、いえ。一人で平気です……!」
 海燕からの提案に、ルキアはぶんぶんと首を横に振った。
 これ以上一緒にいたら、頭がおかしくなってしまう。
 「遠慮すんなって。菓子の礼。な?」
 だが、屈託のない笑顔を向けられ――ルキアはもう少しだけ、この拷問と紙一重の幸福を選ぶことにした。
 「……では……お願い…します」
 「よし」
 それが合図だったかのように、二人は並んで歩き出した。
 「寒ぃな」
 「ですね」
 寒くなどありません。
 「風邪ひくなよ。オメー、細っちいからなあ」
 「大丈夫です」
 熱なら、もうあります。


 この身に降りかかる雪は冷たい。
 でも、貴方の隣は――こんなにもあたたかい。















 
~ おまけ ~


 「じゃあな。また明日」
 「はい。今日もお疲れ様でした」
 「ああ、そうだ」
 立ち去りかけて――言い忘れていたと、海燕は足を止めた。
 「ごちそーさん」
 振り返り、手を振って笑う。
 「……いいえ」
 喜びを返すように、ルキアもふんわりと微笑んだ。


 貴方の隣は――こんなにもあたたかい。










 
~ おまけのおまけ ~


 浮竹へのチョコレートは、懐に入ったまますっかり忘れられていた。















<あとがきと書いて叫ぶ場所と読むのです(訳:長文注意)


……くさくさ海燕殿(吐血)。
でも海燕はクサくてなんぼです。二次創作はベタでこそなんぼです。

いや、でもホンット……ナニコレ!
書いてる時は冷静、かつバレンタインに間に合わせる為に超必死でコスモモード(よく分からないけど何か星矢的な)入ってたんで全然平気だったんですが……
UP後しばらく寝かせて、いざ再度推敲しようと思ったら、もう恥ずかしくて恥ずかしくて……!
とてもじゃないけど、まともに読み返せませんでした。ええ、そりゃもう、かなりの間。
ぶっちゃけ今でも恥ずかしいです……
恐るべし、コスモモード(笑)。

ああ、でも、読んでる方が「こっちが恥ずかし――ッッ!!」って赤面してくれることが、この話の意味っつーか本懐なのかしら……
何はともあれ、お気に召すと幸いですm(_ _)m。


VJの「カラブリ!」の京七バレンタイン漫画を見て、ルキアなら……と妄想を始めたのがきっかけで生まれたお話。
尸魂界のVD、最初の年。

これを書くに当たって日本のバレンタインの歴史について調べてみたところ、義理チョコが定着するのは昭和50年代頃らしく、激しく計算が合いませんが、二次創作ですもの、気にしちゃダメです☆(調べた意味ナイ)


十三番隊書くの楽しかったです~♪ 十三番隊、大好き☆
清音と仙太郎は誕生日まで一緒なんですよね♪
ツートップはややDVちっくで(笑)。
私、仙太郎って清音が好きなんじゃないかと思ってるんですけど。
勿論浮竹への尊敬も本当ですが、清音があんまり「隊長隊長」言うので余計ムキになってるところがあるんじゃないかと。
どうですかねー?
しかし仙太郎は、ルキたんが現世行ったたった数ヶ月で、何故あんなに見事にアゴヒゲ蓄えちゃってんのか……フツーに「ワキクサアゴヒゲ猿」って書いちゃったじゃないか……←気付いた時軽く途方に暮れました(^^;)。
←それでどうしたか探…す程のもんではナイデス。


さあ、海燕について語っていい? 駄目と言われても語るよ!

海燕が貴族だったと判明した時……実は結構ショックでした。
平民なのに、相手が大貴族のお嬢様だろうとお構いなしにガンガン来る、そこが彼の大きな魅力のひとつだと思ってたので。
自分も同格の貴族なら、そりゃ当然接するハードルは低いでしょうよ、だって特別じゃないんだから、「貴族なのに奔放」とかもいいけど、でもさぁ、ルキたんとの関わりはさぁ、と……
でも。
自分が平民だろうと貴族だろうと、そして相手が何だろうと誰だろうと、きっと海燕は変わらない。絶対変わらない。
それに気付いてからは、そんなことは一切どーでもよくなりました(笑)。
海燕は海燕ですね!
そんな薄っぺらな心じゃなかったから、ルキたんも惹かれたんですよね。
大好きだ! 海燕!!


ウチのルキたんは海燕相手だと乙女になります。何か自然にね、こう。
この甘さを恋ルキの時にも出せたらなぁ……と、つくづく思うのですが、しかし海燕あってのルキたんなのですよ。そこは譲れません。


え? 「帰宅して奥さんからチョコ貰ったら、海燕は真実とルキアの想いを知るのでは」?
……さあ、どうでしょう?(微笑)



どーでもいいんですが、半平太に感想を求めたところ、ただ一言、「千代子」言われました。
そこかよ! これだけ長々書いたのにまず千代子なのかよ!
更に「エロくさいタイトル」言われました。
なにをぅ――ッッ!!!! (ちゃぶ台ガッシャーン!! ∑∑(ノ ̄□ ̄)ノ!!)
















(update:2006/02/14)





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