やさしいなまえ
――花を見る度に思い出す。
「なぁ。乱菊て、ええ名前やな」
「……何? いきなり」
「お花さんの菊やろ?」
「……うん」
「菊がそこら中に乱れ咲いとんのやろ。ええなあ。綺麗やなあ」
「菊が乱れ散る、って意味かもよ」
「……夢ないこと言うなぁ」
「あんたこそ似合わない。夢とか」
「ええやん。きっと乱れ咲いてる方や」
「散る方だったら可哀相だからみたい」
「そんなことあらへんよ。散るにも咲かんと散れんのやし。散って、枯れて、また芽が出て、花をつける。おんなじや。どっちもおんなじように綺麗や。なっ?」
「…………」
「菊の花、それか花びらが一面。ええなあ。綺麗やろなあ。ボク見たいわ」
「知らないの? 菊って死者に手向ける花よ。だからあんまり好きじゃない」
「……綺麗やから、やないの?」
「え?」
「死んでしもうて可哀相やから、一番綺麗な花をあげるんやないんかなあ……」
「…………」
「菊、綺麗やよ。あんまり見たことないんか、随分昔に見たんか、記憶が曖昧なんやけど……色んな色があって、色んな形があって……ほんまに綺麗やったんだけは、よう覚えとる」
「……ふぅん……」
「いつか見たいなあ……一面の『乱菊』」
「……ねぇ。ギンは、銀色の『ギン』?」
「さあ? どうやろか」
「銀色の菊もある?」
「……どうやろなぁ……ボクが見た中にはなかったけど……」
「…………何だ」
君が、とても淋しそうに、けれども平然な振りをして目を逸らすから。
僕が君の名前の景色を見たいように、君にも二人の名前の花を見て欲しいと思ったのだ。
「……あるよ」
「え?」
「まだ見たことはあらへんけど、あんなにようけ色があるんやもん。銀色の菊かて、きっと探したらあるわ」
「…………」
「いつか一緒に見よな」
「……別に。いいわよ。探してくれなくても。何となく言っただけだし」
「探す。ボクも見たいんや」
「……勝手にすれば? あんたのことだもの、どうせすぐ飽きるわ」
「……手厳しなあ、乱菊は」
「あんたの日頃の行いが悪いんでしょ」
「…………そや」
「何?」
「あそこやったらあるかもしれん」
「あそこ?」
「瀞霊挺」
「……馬鹿? あんなとこ、行けるわけないじゃない」
「花探すだけでもあかんかいな?」
「無理よ」
「そうかなあ……何やあるんとちゃう?」
「無ー理」
「そっかぁ……」
「諦めるのね」
「……けどまあ、探すとこは色々あるわ」
「……いいって言ってるのに」
「いつかボクが乱菊に見したるよ」
子供が交わした、適当な約束。
子供だから言えた、無茶な願いと素直な気持ち。
「――隊長! こんな所で何なさってるんですか!」
「あぁ。イヅル」
「休憩時間はとっくに終わってますよ! 急ぎの報告書がどれだけあると思って――」
「花、探しててん」
「……花? 花でしたら、お店でお買いになればいいじゃないですか」
「…………」
「とにかく戻りますよ! 仕事が山積みなんですから!」
――花を見る度に繰り返す。
駆け寄って、落胆して、また探して。求めて求めて。
それがどんなに難しいことかを理解しても。二人の距離が遠く離れてしまっても。
むせ返るような匂い。眩暈がする程の色彩の波。あらゆるかたちとすべての種類を集めたような、菊の群生。
こんなに咲いてるのに。
色が、足りない。
たったひとつ、心から望むものだけは、どうしても見付からない。手に入らない。
「ないなぁ……乱菊」
銀の菊。
そんな奇跡があったなら、何も迷わずにずっと此処に居ることさえ叶いそうなのに。
「……ないなぁ……」
<あとがき>
ギン乱2作目。
今度は台詞劇みたいな(手抜きじゃないのよ)。
これも1作目「Follow」同様、06年2月頃に書いて、殆ど出来てるのにあと少しのところで放置され……
いい加減このパターンから脱したいですね! でもまだ沢山書きかけあるんだ!
「今更このネタ!?」とか、もう気にするのやめようと思います(死)。
ギンの言葉遣いは大目に見て下さい(汗)。これでも頑張ったんですよーぅ……
関西弁なんて分からないものー(泣)。
京都寄りだと思うんだけど、そこも詳しく分からないし……
「乱菊」という言葉は実際にあって、正しい意味は「長い花弁が入り乱れて咲いている菊の花。またはその模様」。
でもこの頃の二人がそれを知っている筈はないでしょうから、ね。
残念ながら銀色の菊はありませんが(当たり前だ)……でも「ギンラン(銀蘭)」という花ならあるんですよ!
萌えろといわんばかりですね!(笑)
何か、「いかにも」的な知ったかぶった書き方をしてますけど、勿論私はなーんにも分からないし、知らないワケで。
どうなんですかねー? 色々……
いつ判明するのかしら……あと何年待てばいいのかな。待てるかな。待ってるかな(爆)。
ギンって本当に何考えてるのか全然読めません。
若い青春の盛りに、あんな巨乳美人の恋人(って言っちゃっていいよね!)捨てて魔王について行くって、あのオッサンに一体どんだけのオプションが付いてると……?
ワケ分かりませんよ。
あのオッサンは超逸品の干し柿を作る、干し柿マイスターとでもいうんでしょうか(笑)?(←「カラブリ+」ネタ)
ホント、二人が再会するのはいつでしょう……(遠い目)
ギンはちらほら出て来るけど、乱菊さんはもう随分ご無沙汰ですねえ……
過去話とかでもいいから(っていうか大歓迎!)、ギン乱を拝みたいです。
(update:2007/08/07)