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 「何で来たん?」
 あたしがついて来たと知ると、決まって彼はこう言った。
 驚いたように、困ったように、窘めるように。
 「別に」
 「あたしの勝手でしょ」
 「あんたの許可がいる?」
 「一人でいても暇だもの」
 「帰らないわよ」
 答えるあたしの台詞はその時々で、だけどいつも怒っていた。


 「あんたが……そうさせてるんじゃない……!」
 一度、そう言ったことがある。
 あの日も雪が降っていた。
 何も話してくれないから。
 何処へ行きたいの。何がしたいの。何を考えてるの。どうなりたいの。
 あたしをどう思ってるの。
 一番言いたかった言葉は、雪に覆われて。
 黙ってしまった時間は、僅かながらも、ちっぽけなあたしの足跡を消すには充分で。
 「大人しく待っててなんかやらないからね」
 そのことにひどく苛ついて、吐き捨てるように言葉を投げ付けた。
 握った拳が震えているのは、寒さのせいだと自分に言い訳しながら。


 「……ほな、行こうか」
 彼は何も言わず、何も答えず、不思議な程当たり前のように手を差し出してきた。
 躊躇う隙さえ与えてくれずに、あたしの手を引いて歩き出す。
 一歩踏み出すごとに、白い地面は小さな悲鳴をあげた。
 さく、さく、と。
 「……怒ってるの?」
 「怒ってへんよ」
 「嘘」
 「嘘ちゃうて」
 「嘘よ」
 「何で」
 「あんた嘘つきだもの」
 繋がれた手の先で、軽く笑う声がする。
 「なら、これも嘘でもええけど」
 「何?」
 「……ほんまはな」
 冬の空気に晒されて冷えた手は、それでも微かに暖かく。
 「ちょっと嬉しいわ」
 「……大嫌いよ」
 あんたのそういう処が、大嫌い。
 あたしの存在なんかどうでもいいみたいに勝手なことばかりしてるくせに、調子のいいこと言わないで。
 そう言ってやりたかったのに。
 その温もりを守ることの方が大事で、繋がれた手の方が大事で、口を噤んでしまう、臆病な自分に負けていた。




 白く染まった街は、いつもより広く見えて。まるで世界に二人しかいないみたいで。
 子供のあたし達など、埋もれてしまいそうで。
 さく、さく、と、新しく足跡を残しながらあたし達は歩いた。
 自分達はここにいるのだと、存在を印すかのように。
 けれど、こっそり振り返ると。
 そこにはもう、二人の証は無かった。
 世界は限りなく残酷で、幼い足跡さえも、雪に消されていく
――……




 降り積もる雪に、小さな痕跡さえ奪われてしまうあたしに。
 彼を見失わないでいる術など、持てよう筈がなかった。








 居なくなって。追いかけて。
 捕まえて。逃げられて。
 捜して。捜して。捜して
――……
 鬼ごっこのように一緒にいた。
 ただ傍に居たいだけなのに、隣で歩いて行きたかったのに。
 いつも黙って消えるから、いつもいつも後をついて行くかたちになって。


 「行かないで」「離れないで」
 どうしても言えなかった。
 何処かへ行こうとする気配に目を覚ましていたこともあったのに。
 その瞬間に、起きて、腕を掴んで、止め続けていれば、何かを変えられた?








 いつの間に、こんなに遠くなったんだろう。
 市丸ギン三番隊隊長。
 松本乱菊十番隊副隊長。
 その肩書きは、たったそれだけの違いなのに。
 過ぎて来た時間はなんて重い。
 口に出すとまるで他人のよう。
 昔のように気軽に名前を呼ぶこともなくなって。
 あたしの不安が強くなる程、比例するように二人の距離は開がって。




 ねえ、あたし達があたし達らしく、最後に話をしたのはいつ?








 「動かないで」
 喉元に、斬魄刀の刃を突き付ける。
 何であたし達こんなことしてるの?
 「……すんません、藍染隊長。つかまってもた」
 今、どんな顔してるの?


 「
――離れろ!!」
 久しぶりに触れた手が、絶望の穴から吐寫された光に引き裂かれる。


 「……ちょっと残念やなあ……」
 何が。
 「もうちょっと捕まっとっても良かったのに……」
 どういう意味。
 「さいなら」
 何。
 「乱菊」
 懐かしい、あたしの名前
――……
 「ご免な」
 
――待ってよ。
 ごめんって何。さよならって何。
 もう追いかけさせてもくれないの。
 あたしはまだ、あんたの名前を呼んでない
――…… 








 鬼ごっこのように一緒にいた。
 でも。
 本当に捕まえられたことなんか、きっと一度もなかった。








 どうすればよかったの。
 「行かないで」「離れないで」
 そんな可愛い台詞、あたしには似合わない。
 だけど。
 あんたが何処を見てるか分からなくても、どんなに不安でも、あんたの名前を呼び続けて、駆け寄っていればよかったの
――……








 (……狡い男)
 「何や、朝っぱらから騒々しいことやなァ」
 あの時も。
 「ボクを追うより、五番副隊長さんをお大事に」
 あの時も。
 あたしなんかいないみたいに振る舞ってたくせに。最後の最後で名前を呼んで。
 (勝手)
 独りで死んでいくところだったあたしを助けたのはあんたじゃないの。他人(ひと)の人生に踏み込んで来ておいて。
 (馬鹿)
 「ボクと会うた日が乱菊の誕生日や」
 あんたのそういう処が嫌いなのよ。
 嘘つきのくせに、昔から、一番欲しい嘘はくれない。
 置いて行くなら、せめて憎ませてくれたらどうなのよ
――……








 「……現世に? 先遣隊?」
 
――あたしは。
 何も分からないまま、ただ泣いて諦めるような、しおらしい女じゃない。
 「面白そうね」
 言った筈よ。大人しく待っててなんかやらないって。
 「あたしも行くわ」
 ついて行くんじゃない。ついて行ってなんかやらない。
 あんたが何処へ行きたいのか、何がしたいのか、何を考えてるのか、どうなりたいのかなんて関係ない。知ったことじゃない。
 あたしが行きたいから行くの。




 「ご免な」
 許さない。
 「さいなら」
 勝手に決めてんじゃないわよ。




 「絶対行く」


 あんたにまだ、言ってないことがあるの。
















<無駄に長いあとがき>



初ギン乱です。
SSっていうか、モノローグ劇みたいな。
1月頃に書いて、殆ど出来てるのにあと少しのところで放置され(いつものパターン)……
乱菊さんハピバ合わせで、やっとのお目見えでございます(^^;)。

現世での乱菊さんの「……キャラ変わったよね?」とツッコまずにはいられない程のはしゃぎっぷりの陰には、こういう想いもあるのではないかと……
「ギンと出会った日」である誕生日には、何を想ったのかな……(スルーされたけど……←怨)


ギン乱は、178話『No One Stand On the Sky』で一気に燃え上がりました。
ええ、勢いに任せて「小人のお茶会」になっがい感想を書き殴ったほど。
(※過去ログ「小人のお茶会 古書館」に収納。←現在は準備中の為閲覧出来ません。すみませんm(_ _)m)


原作の、子乱菊が起きたら子ギンがいなくなってたシーン。
あれは、いなくなる時は眠ってて、出て行った直後に目を覚ました、とも取れるので、件の描写は入れるか削るか迷ったんですが。
「でもギンは何度もそういうことしてそうだよな……」と思って、あのように書きました。
初めてだったら、普通慌てて追いかけるなり、捜すなりするだろうしね。
いや、いつもいなくなるのは日中で、夜出て行ったのは初めて、という可能性も考えられるけど……
まあ、二次創作ということで、いつか明かされた時違ってても気にしないで下さい! (←小心者めが)

ところで、この原作のシーンの後、ギンはちゃんと帰って来たのかな? 
それとも、これが「二人の生活の終わり」で、これっきりで、乱菊さんはギンを追いかけて死神になったのかな……?
「同期」だからって、二人一緒とは限らないわけで。
ギンを追う形で一人で真央霊術院に入学して、一人で通って、一人で死神になったのかも。
同期なのに、お互い知ってるのに、別々で……話したりもしなくて……
……うわー! もしそうだとしたら、切な過ぎる……! (←そうだと決まったわけじゃありません)

いやホント、何処まで一緒にいて、何処から離れてしまったのか、かなり気になるんですけど……
何となく徐々になのか、きっかけがあってそれから急速になのかも……

ギン乱も、恋ルキや白緋と同じく、過去と謎を明かして欲しいカプのひとつです。
ええ、もうバトルの行方とかはぶっちゃけどーでもいいんで(オイ)、そっちの方を!
スッキリさせてくれるなら、想像と全然違ってて恥をかくことも厭わないから!


この二人、今は完全に敵対する位置にいるわけですが……
でも、ギンにとって乱菊さんは、「唯一斬れない存在」であるといいなぁ……とか夢見てます。

何にせよ、どんな形であれ、最後には乱菊さんの所に帰って来て欲しいな……きっと受け入れてくれるから。女を舐めんなよ?
大体ねぇ、どーせ男の方が引きずるんだから、アホでもいいから素直になってりゃいいんですよ。女はアンタ達が思ってる程弱くないよ!

とりあえず再会の暁には、まず最初に「あんたのそういう処が嫌いなのよ」と平手でもぶちかましてやるといいと思いますよ、乱菊さん!
ギンも甘んじて受けてくれるでしょう。
浦原は誰も殴ってくれなかったので(一護殴るとこ違うし!)、今度こそ! (←殴らないなら、せめてツケを踏み倒せルキたん!! ←話変わってます)


そんなわけで、
HAPPY BIRTHDAY ☆ 乱菊さん!! (←どんな祝い方!?)















(update:2006/09/29)





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