SCENE4  Stray girl comin'






ナ   ギ 「――で。この子はどこの子なんだ?」

ア ク ア 「それが……病院で調べてもらったんですけど、今のマスターが登録されていないんです。

      以前のマスターなら分かったんですけど、もう亡くなられていて……。

      それで、この方に訊いたんですが……」

エノア   「教えないよ、アタシ。家出してきたんだから」

ア ク ア 「……だそうです」

ナ   ギ 「まいったな~。届け出してないんじゃ、どこの子なのか調べるの難しいじゃないか。

      今頃マスター、誘拐されたって思って、大騒ぎしてるかもな。

      警察に連絡されたら、ちょっとややこしいことになるんだけど……」

エノア   「平気よ。ちゃんと家出するって言ってきたもの」

ナ   ギ 「……それじゃ、きっと心配してるよ、マスター」

エノア   「
(嘲笑するように鼻で笑って)、そんなの、するわけないじゃない」

ナ   ギ 「…………?」

エノア   「それよりさ、そのマスターってのやめてくんない? 人形みたいに。アタシは人間だって言ってんでしょ」

ナ   ギ 「つったって、ソーセージ食べらんなかったんだろ?」

エノア   「賞味期限過ぎてたのよっ、きっと!」

ア ク ア 「ナギ……どうします?」

ナ   ギ 「……仕方ない。行方不明(ロスト)ヒューマノイドのサイトにこの子の情報載せて、マスターを捜そう」

エノア   「やめてよ! そんなのいいってば! 勝手に決めないで
――

リンメイ 
(遠くから、でっかい声で)「たっだいまー!!」

ナ   ギ 「あ、リンメイ帰って来た」

エノア   「……誰?」

ナ   ギ 「うちのもう一人の助手だよ。彼女もヒューマノイドなんだ」

     
<扉の開く音>

リンメイ  「あーもう見てぇ。すっごいびしょびしょー。アクア、タオルちょーだい」

ア ク ア 「もー……リンメイさん! そんなずぶ濡れで上がって来ないで下さい!」

リンメイ  「いーじゃない。拭けば済むことでしょ」

ア ク ア 「傘はどうしたんですか? 今日は夕方から降りそうだって、出掛ける時ちゃんと言ったのに」

リンメイ  「だって、邪魔じゃない、傘って。あたし達、風邪ひくこともないしさ」

ア ク ア 「それはそうですけど。そういう問題じゃ……もう」

ナ   ギ 「マーセル・タウンは楽しかった? リンメイ」

リンメイ  
(おばさんのノリで早口で)「もう最高よ。

      モール行ったんだけどさ、リットの奴、警備員という警備員に敬礼すんの! 

      お店回ってたら同じとこ何回もウロウロするじゃない? 

      だから同じ警備員にも何回か会うんだけど、その度によ? もう完璧不審人物! 

      とうとう一人の警備員が怒っちゃってさ、連行されそうになって、全力で逃げて、まいて。

      おっかしいでしょ!?」

エノア   「あのー……」

リンメイ  「あら、お客さんいたの? ちっちゃくって気付かなかったわ」

エノア   「な……っ!?」

リンメイ  「なーんて、うっそ。気付いてたわよ。ごめん、気ィ悪くしないでね」

エノア   「…………」
(←不服そうなブレス)

リンメイ  「それで、この子はどちらさん? ナギったらまた拾ってきたんでしょー」

ナ   ギ 「アクアが連れて来たんだよ、今回は。エノアっていうんだ」

リンメイ  「アクアが? ふぅん……ハイ、エノア? あたしはリンメイ。

      見ての通りRA‐01型のヒューマノイドよ。あなたはUA……」

エノア   
(遮って)「ニ・ン・ゲ・ン・のエノアよ。よろしく」

リンメイ  「はぁ? 何言ってんの? 

      ……
(少し小声になって)ちょっとナギ、この子何か変よ。回線に異常があるのかも。診てあげ……」

エノア  
(遮って)「人間だって言ってんでしょ! 耳悪いの、あんた!?」

リンメイ  「……なによ。せっかく心配してあげたのに」

エノア   「大きなお世話っていうんだよ、そういうのは。

      ヒューマノイドだから人間のアタシがうらやまいしのは分かるけど、鬱陶しいと思わない? 

      人形のひがみって」

リンメイ  「お気の毒にとなら思うけど? 

      人ん家で生意気な口たたくお嬢さんの非常識っぷりは、どうやら回線が相当イカれちゃってるせいみたい。

      可哀相ー。ねぇナギ?」

ナ   ギ 「まぁまぁ。とにかく今からマスター探してみるから、見つかったら来てもらうって事で。いいだろ?」

エノア   「いらないって言ってんでしょ!? アタシは自分の意志で出て来たの! 余計な事しないで!!」

リンメイ  「うるっさいわね、いちいち突っかかって!! ナギ! こんな子の面倒なんてみてやることないわ! 

      お金儲けに役立つわけでもなし! さっさと追い出そうよ!」

エノア   「そっちが勝手に連れて来たんじゃない! こっちこそ願い下げだよ! どうもお騒がせしましたー!!」

ア ク ア 「待って下さい! どこへ行かれるつもりなんですか!?」

エノア   「……そんなの、関係ないでしょ!」

ア ク ア 「当てなんて無いんでしょう? そうでなきゃ、こんな雨の中、あんな所でおなかをすかせてるはずないもの」

エノア   「……………」

ア ク ア 「……ねぇ、ナギ。しばらくこの方をうちに置いてあげてくれませんか? 面倒なら、私がちゃんと」

リンメイ  「あのねぇ、アクア。馬鹿言わないでよ。何だってこんな奴。大体うちの経済状況、忘れちゃったわけ?」

ア ク ア 「それなら大丈夫です。私、自分用にいくらか貯えてありますから」

リンメイ  「うそっ。何あんたへそくりしてたのォ!?」

ア ク ア 「貯蓄と言って下さい。私無駄遣いしませんもの。リンメイさんと違って」

リンメイ  「あんったねぇ~……」

ア ク ア 「ねぇ、いいでしょう、ナギ?」

ナ   ギ 「部屋はどうするんだ? 空き部屋ならあるけど、どれも使えるような状態じゃないよ」

ア ク ア 「そんなの、私相部屋でもちっとも構いません。ね、エノアさん?」

エノア   「え? っていうか……アタシ別に……」

ア ク ア 「もう他に問題はないでしょう?」

ナ   ギ 「うーん……」

ア ク ア 「お願いします、ナギ……」

ナ   ギ 「……
(溜息)、仕方ないなぁ。分かった、いいよ。アクアがそこまで言うんならね」

ア ク ア
(ほぼ同時に)「本当ですか!?」

リンメイ         「えーっ!? やだぁ! ナギぃ!」
(←非難)

ナ   ギ 「今回は譲ってくれよ、リンメイ。
(少し小声になって)俺もこの子ちょっと気になるしさ」

リンメイ  「けど……」

ア ク ア 「ありがとうございます、ナギ!」

ナ   ギ 「
(笑って)いや。でもその代わり、仕事を絶対おろそかにしないこと。それだけは約束してくれよ」

ア ク ア 「もちろんです! 今まで以上に頑張りますわ」

リンメイ
  (小声で)(溜息)気になるとか言って……単にアクアに弱いだけじゃない。ったく……」

ア ク ア 「さ、エノアさん。早速ですけど、どこに何があるか案内しますわ。どうぞこちらへ」

エノア   「え? だからアタシは……って、ちょっとぉっ!?」
(腕を引っ張られている感じで少し遠ざかる)

      <扉の閉まる音>











<COMMENT>


リンメイ登場。オールキャラ、これにてようやく出揃いましてございます。

なかなかに手のかかったシーンです。
大人の事情でOKテイクを録り直したりとか……(遠い目)

BGMは録音方法の関係で全部台詞と同時録りなんですが(失敗したら最初から/泣)、ここはSE(ドア)も同時録りだったんで大変でした(ちなみにSEはニュアンスに合うものがなかなか無いので殆ど生録り=つまり本当にやる)。
台詞を言いながら、ドアをバタン!と閉めたり、揺れないようマイクスタンドを押さえたり……
あと、台本持ってない方の手で、曲に合わせてQ出ししたり、リモコン握りしめて曲かけたり(ボタンが小さいのでよく失敗/涙)……
なんてことは、ここだけに限らず日常茶飯事。
そんな裏方的なことやりながら、同時に演技もするわけですよ。
アマチュアだから。つーか人いないから(爆)。
本人達は大真面目かつ必死ですが、ハタから見たら間抜けな図なんだろうなぁ……(^_^;)

ちなみに、ここのリンメイの「たっだいまー!」は、マイク(指向性)と反対の部屋の隅、冷蔵庫の前から叫んで貰いました(一人遠くで淋しそうでした)。
それで思い出したんですが、冷蔵庫って時々モーター音鳴りますよね。ウィーンって。
そういう時は仕方ないので鳴り止むのを待ってたんですが、途中からそんな余裕すら無くなった私達は、録音中だけコンセントをぶち抜くという暴挙に出るように(爆)。
電気代にかなり優しくないです。
で、たまにそのまま入れ忘れて親に怒られたことも……(^_^;)

収録場所が変わってからはこの冷蔵庫問題は解決しましたが(冷蔵庫のない部屋になったので)、色んなノイズには最後の最後まで悩まされまくりましたね……

スタジオ? 無理です。
だってアマチュアだから。つーかそんなお金ないから(爆)!
たった数回で録ってるんじゃないんだものー! マジで百回近くかかってるものー!(血の涙)

……ホントみんなよく頑張ったなぁ……嫁にも持って行けますよ。

カッコ良くなくてすみません。
でも本人達は大真面目かつ必死なんだってば!

……あ、こんなん書いたら質悪そうに取れるかもしれないですが、そんなことはないと思いますよ。
分不相応(お金ない・機材ない)でも、だからって妥協しなかったからね! みんなすっっっごい頑張ったからね!
その成果、是非あなたの耳でお確かめ下さい!!










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