SCENE3 Rain
ヒューマノイドA「あの娘……あのチョーカーのデザインって、UA‐SV型よね」
ア ク ア 「ええ。そうみたいですね」
ヒューマノイドA「何か変じゃない? こんなとこに手ぶらで。何やってるのかしら?」
ア ク ア 「さあ………」
<雨の音>←ず――っと
エノア 「……ほんとに最悪……!! よりによってこんな時に降らなくたっていいじゃない……! ああ、もう!」
<ドサッ>←ベンチに寝そべる音
(M)(しばらく雨の音を聞いて)
エノア
「…………悔しいけど、あいつの言う通り、行くとこなんか何処にもない。
……どうしようか……これから……」
男の子
「……ねーちゃん。何やってんの?」
エノア
「(B)。何処の子よ、あんた」
男の子
「そのベンチ、ぼくの特等席なんだぜ。勝手に寝ないでくれよ。どいて」
エノア
「いーや。このベンチはお店のでしょ」
男の子
「そうだけど、ぼくがリザーブしてるんだ」
エノア
「何がリザーブよ。生意気言っちゃって」
男の子
「ねー、どいてよー」
エノア
「やだってば。お姉ちゃんは、元気がないからこうしてんの」
男の子 「ならお家帰って寝た方がいいんじゃない? ぼく送ってあげようか」
エノア 「(笑って)ばっかじゃないの? 家にはね、帰らないの」
男の子 「どっか行くんだ?」
エノア 「別に何処も」
男の子 「じゃあ、ずっとここにいるの?」
エノア 「いるかもね」
男の子 「変なのー。ねー、どこに住んでんの?」
エノア 「……あんたには関係ないよ」
男の子 「いーじゃん。教えてよ」
エノア 「(少し怒って)うるさいなぁ。もうあっち行ってよ」
男の子 「何だよー……あっ、分かった! ねーちゃんホームレスなんだ!」
エノア 「ホ……!? 違うわよ!!」
男の子
「ムキになるのは当たりってことって、ママが言ってたよ」
エノア 「違うって言ってんでしょ! ほんっとに生意気なガキね――ってあああ……」
男の子
「ねーちゃん?」
エノア
「もーいい。怒鳴ったら余計元気なくなった。どっか行っちゃって」
男の子
「……ねーちゃん、びょーきなの?」
エノア
「お腹すいてるだけ」
男の子
「ホームレスだから?」
エノア 「違うって聞こえないの、このガキ!!」
男の子 「じゃあさ、ぼく誰か優しそうな人呼んで来てあげるよ! 待っててね――!」(遠ざかる)
エノア 「ええっ!? ちょっとやめてよ、いいってば――!! ……ああ、行っちゃった……。
ま、いっか。どうせ相手にされないよ。
……(溜息)……何やってんだろ……アタシ…………」
(M)
エノア 「……さっきのUA‐SU型……綺麗だったな。穏やかそうで……
きっと、マスターに大切にされてるんだ。
アタシはあんな風に笑えない。アタシはあんな顔できない。アタシは……
………そうだった頃もあったのかな……」
男の子
「ねーちゃーん! 連れて来たよー!」
エノア
「嘘っ、ほんとに――(B)」
ア ク ア「あなたは、さっきの……」
男の子 「この人だよ。何かあげてくれる? もう何日も食べてないんだって」
エノア 「誰がんなこと言ったんだよ!! お腹すいてるだけだったら! 大袈裟にしないで――あ。」
男の子の母 (遠くで)「タツキちゃーん。帰るわよー」
男の子
「あ、ママだ。じゃあねぇ、バイバーイ!」(遠ざかる)
エノア
「ああっ、ちょっとおっ!! ……何だったのよ、あいつ……。…………」
ア ク ア「……お腹……すいてるんですね」
エノア
「え? いやその……あの……うん」
ア ク ア「じゃあ、何か食べます?」
エノア
「……いいよ。あの子の言ったことなら気にしないで」
ア ク ア「でも、お腹すいてると辛いでしょう?」
エノア
「そりゃそうだけど、けど……」
ア ク ア「遠慮ならいりませんわ。どうせそんな大したもの買ってませんから」
エノア
「…………」
ア ク ア「何かいかがですか?」
エノア
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
ア ク ア「はい。ええっと……<ビニール袋ガサガサ>……あ。これ、簡易栄養摂取ゼリーです」
エノア
「……いらない」
ア ク ア「え? あ、このメーカーの嫌いでした? でも今日はセール品のこれしか買ってなくて……」
エノア
(遮って)「違う。それはヒューマノイドの食べるものでしょ」
ア ク ア「……え? でも、そのチョーカーはUA‐SV型ヒューマノイドの……」
エノア
(遮って)「アタシは人形じゃない!!」
ア ク ア「(B)」
エノア
「人間なの! そんなの食べらんない……!」
ア ク ア「………じゃ……<ガサガサ>……これ、ソーセージですけど……良かったら……」
エノア
「ありがとう。それもらうね。(食べる)」
ア ク ア「あの……本当に大丈夫ですか?」
エノア
「何が? (食べ終わる)。あー、元気出てきたわ! ごちそうさ……(フラついた声)」
ア ク ア「ああっ。ふらふらしてるじゃないですか」
エノア
「ただの立ちくらみよっ! 急に立ったから! ほら、もう平気! アタシも1回お店見よっかな」
ア ク ア「でも……」
エノア
「平気だったら! それじゃあね、ほんとにありがと。あ、そうだ。あんたの名前教…え…て……(倒れた声)」
<倒れた音>
ア ク ア「や…っ、ちょっと大丈夫ですか!? しっかりして下さい! 誰かー! 救急車お願いしますー!」(遠くへ)
<雨の音 フェードアウト>