SCENE3  Rain






     <マーケットのガヤ>




ヒューマノイドA「あら。こんにちは、アクア」

ア ク ア    「こんにちは。今日は何を作るんですか?」

ヒューマノイドA「それがねー、私のマスター食べたいもの言ってくれない人だから、困っちゃって。

        アクアんとこは何作るの?」


ア ク ア   「カレーなんですけど、お肉が安くなくて。

         だからナギには悪いけど、ビーフじゃなくてチキンカレーにしようかと思ってるんです」


ヒューマノイドA「大変ねー、相変わらず」





     (M=モノローグ)(二人の上にかかって)


エノア    「………最悪………お財布も持たずに飛び出しちゃった……。

     とりあえず適当に知らないとこ入ってみたけど、これじゃあ……。


      ……どうしよう……お金ないんじゃ何にもできない。でも取りに帰るのなんか死んでも嫌だし……

      ……
(溜息)……お腹すいたなぁ……

            ……馬鹿みたい。最悪だ……もう出よ」

     <ぶつかる音> <買物カゴを落とす音>

エノア    「あっ……ごめんなさい」

ア ク ア「いえ、こちらこそ」

エノア  「ああ、落っこっちゃった……どうしよう……」

ア ク ア「大丈夫です。割れたりするようなもの、ありませんでしたから」

エノア    「よかった。ほんとにごめんなさい。……じゃ」





ヒューマノイドA「あの娘……あのチョーカーのデザインって、UA‐SV型よね」

ア ク ア   「ええ。そうみたいですね」

ヒューマノイドA「何か変じゃない? こんなとこに手ぶらで。何やってるのかしら?」

ア ク ア   「さあ………」





    
 <雨の音>←ず――っと



エノア  「……ほんとに最悪……!! よりによってこんな時に降らなくたっていいじゃない……! ああ、もう!」

 
      <ドサッ>←ベンチに寝そべる音





         
(M)(しばらく雨の音を聞いて)

エノア    「…………悔しいけど、あいつの言う通り、行くとこなんか何処にもない。

           ……どうしようか……これから……」





男の子    「……ねーちゃん。何やってんの?」

エノア   
(B)。何処の子よ、あんた」

男の子    「そのベンチ、ぼくの特等席なんだぜ。勝手に寝ないでくれよ。どいて」

エノア    「いーや。このベンチはお店のでしょ」

男の子    「そうだけど、ぼくがリザーブしてるんだ」

エノア    「何がリザーブよ。生意気言っちゃって」

男の子    「ねー、どいてよー」

エノア    「やだってば。お姉ちゃんは、元気がないからこうしてんの」

男の子  「ならお家帰って寝た方がいいんじゃない? ぼく送ってあげようか」

エノア  「
(笑って)ばっかじゃないの? 家にはね、帰らないの」

男の子  「どっか行くんだ?」

エノア  「別に何処も」

男の子  「じゃあ、ずっとここにいるの?」

エノア  「いるかもね」

男の子  「変なのー。ねー、どこに住んでんの?」

エノア  「……あんたには関係ないよ」

男の子  「いーじゃん。教えてよ」

エノア  
(少し怒って)うるさいなぁ。もうあっち行ってよ」

男の子  「何だよー……あっ、分かった! ねーちゃんホームレスなんだ!」

エノア  「ホ……!? 違うわよ!!

男の子    「ムキになるのは当たりってことって、ママが言ってたよ」

エノア  「違うって言ってんでしょ! ほんっとに生意気なガキね
――ってあああ……」

男の子    「ねーちゃん?」

エノア    「もーいい。怒鳴ったら余計元気なくなった。どっか行っちゃって」

男の子    「……ねーちゃん、びょーきなの?」

エノア    「お腹すいてるだけ」

男の子    「ホームレスだから?」

エノア  「違うって聞こえないの、このガキ!!

男の子  じゃあさ、ぼく誰か優しそうな人呼んで来てあげるよ! 待ってて
――!」(遠ざかる)

エノア  「ええっ!? ちょっとやめてよ、いいってば
――!! ……ああ、行っちゃった……。

       ま、いっか。どうせ相手にされないよ。

            ……
(溜息)……何やってんだろ……アタシ…………」





         (M)

エノア  「……さっきのUA‐SU型……綺麗だったな。穏やかそうで……

     きっと、マスターに大切にされてるんだ。

     アタシはあんな風に笑えない。アタシはあんな顔できない。アタシは……


            ………そうだった頃もあったのかな……」





男の子    「ねーちゃーん! 連れて来たよー!」

エノア    「嘘っ、ほんとに
――(B)

ア ク ア「あなたは、さっきの……」

男の子  「この人だよ。何かあげてくれる? もう何日も食べてないんだって」

エノア  「誰がんなこと言ったんだよ!! お腹すいてるだけだったら! 大袈裟にしないで
――あ。」

男の子の母
(遠くで)「タツキちゃーん。帰るわよー」

男の子    「あ、ママだ。じゃあねぇ、バイバーイ!」
(遠ざかる)

エノア    「ああっ、ちょっとおっ!! ……何だったのよ、あいつ……。…………」

ア ク ア「……お腹……すいてるんですね」

エノア    「え? いやその……あの……うん」

ア ク ア「じゃあ、何か食べます?」

エノア    「……いいよ。あの子の言ったことなら気にしないで」

ア ク ア「でも、お腹すいてると辛いでしょう?」

エノア    「そりゃそうだけど、けど……」

ア ク ア「遠慮ならいりませんわ。どうせそんな大したもの買ってませんから」

エノア    「…………」

ア ク ア「何かいかがですか?」

エノア    「……じゃあ、お言葉に甘えて……」

ア ク ア「はい。ええっと……
<ビニール袋ガサガサ>……あ。これ、簡易栄養摂取ゼリーです」

エノア    「……いらない」

ア ク ア「え? あ、このメーカーの嫌いでした? でも今日はセール品のこれしか買ってなくて……」

エノア    
(遮って)「違う。それはヒューマノイドの食べるものでしょ」

ア ク ア「……え? でも、そのチョーカーはUA‐SV型ヒューマノイドの……

エノア    
(遮って)「アタシは人形じゃない!!

ア ク ア「
(B)

エノア    「人間なの! そんなの食べらんない……!」

ア ク ア「………じゃ……
<ガサガサ>……これ、ソーセージですけど……良かったら……」

エノア    「ありがとう。それもらうね。
(食べる)

ア ク ア「あの……本当に大丈夫ですか?」

エノア    「何が? 
(食べ終わる)。あー、元気出てきたわ! ごちそうさ……(フラついた声)

ア ク ア「ああっ。ふらふらしてるじゃないですか」

エノア    「ただの立ちくらみよっ! 急に立ったから! ほら、もう平気! アタシも1回お店見よっかな」

ア ク ア「でも……」

エノア    「平気だったら! それじゃあね、ほんとにありがと。あ、そうだ。あんたの名前教…え…て……
(倒れた声)

    
 <倒れた音>

ア ク ア「や…っ、ちょっと大丈夫ですか!? しっかりして下さい! 誰かー! 救急車お願いしますー!」
(遠くへ)



    
 <雨の音 フェードアウト>












<COMMENT>


アクアとエノアの出会いです。


マーケットのガヤは、たった4人で作りました。

@ まず、BGMを流しながら、店内アナウンスを録る ⇒
A それを流しながら、人々を録る(同時に二役以上演る) ⇒
B 更にそれを流しながら、エノアが喋り、その後ろで同時にアクアとヒューマノイドAが喋る

とまあ、こんな風に結構手間がかかっているんですが……見事に全ッ然聞き取れません(哀愁)。
いえ、ガヤってそういうものですが……
フッ、いいのさ。分からない部分まで頑張るのが職人ってものなのさ。(誰が職人)

つーか、ぶっちゃけちょっとやり過ぎました(爆)。
出来上がったの聴いたら、予定より大分賑やかで。
ビッグバーゲンセールってことで、ひとつよろしく(^^;)!

ヒューマノイドAはスペシャルゲスト・ククリ弥生ちゃんが演じてくれています(>_<)!
ガヤも手伝ってくれました(ありがとう〜!)。


ブックレットの表紙イラストのシーンですね。
この男の子、男の子の母、ヒューマノイドAも、最終稿まで存在しませんでした。


ビニール袋の音は、リンメイ役のたつみ姫がリアルタイムでガサガサやってくれてます。泉と霊凍嬢の足元で(苦笑)。
たかがビニールと侮ることなかれ。
上手に芝居の呼吸を読んで、いい感じに音立ててくれるんですよ。流石たつみ姫。
お陰様で演りやすかったです。


ナチュラルに貧乏発言を連発するアクア。

エノアのせいで、ナギのいつかの貴重なおかずが一品減りましたね(笑)。











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