薔薇人形少女







怠惰に蝕まれる退屈で素敵な雨の午後

私の一番好きな天気

細い雨は紗幕のようで いつもの下らない景色が澄んで見えるの

窓枠は額縁 頬杖ついて貴女と眺めるこの絵画

私の一番好きな時間





ずっと此処に居たい

貴女と一緒に 貴女のように

面倒な学校になんか行かないで

煩わしい人間(ひと)になんか逢わないで





でも今日は 貴女が外に出たいと言うから 

二人でおめかししてみたの





ううんいいのよ だって貴女だけが私のお友達

金糸の髪 珊瑚の唇 色づく少女性 永遠の少女性

浄も不浄も超越した 憂える深いブルーのグラスアイ

貴女より綺麗な娘はいない

私の自慢のお友達





お揃いのドレスを着ましょう

貴女の透き通る白いビスクの肌には 黒いベロアがとてもよく映える





そう 黒を最も彩るのは白





白いレースの海を抱きましょう 

清かの胸に 細い腕に脚に首に

漆黒の天空に掲げられた輝く満月のような





そう 白を最も彩るのは黒





高貴なる薔薇の花を身に纏って

可憐に 豪奢に 誰よりも気高く

貴婦人の傘でなら こんな日の散歩も悪くない

雨の匂いは お伽噺の始まりね





さあ 今日は世界を見てみましょう

目的地は何処にする?

あの映画のように 昏い森に消えて行きましょうか





〔戒律 道徳 司法の館〕

綺麗綺麗な世界  それは本当に美しいの?

穢れを赦さぬ心

罪という名の瑞々しい林檎を貪りたいくせに

――禁断の果実はどんなにか甘いことでしょう――





〔秘密の花園〕


蜜に群がる蝶  翅を捥いでみたい

そうしたらきっと 愛でられるのは躰ではなく翅ね





〔空を覆う傲慢〕


あの塔が全部折れてしまえばいいのに

神話が嘘吐きでいいの?

例え言語が分かたれても平気

私達に言葉は必要無いから





〔止まない雨〕

このまま世界が水に沈んでしまえばいいのに

ノアの方舟になんかは死んでも乗らないわ





主人公以外は屑同然 

そんな童話が語り継がれるのは何故?

柔らかな夢見る唇が口遊むマザーグース 

隠された意味には気付かぬふりして

純粋な残酷さで 少女達は呪詛を繰り返す





言葉の剣を振り翳し 聖者面して断罪する

背徳の乙女となる





〔祈りはいらない〕

磔人が何を救えると云うの?

教えという鎖で羊らを縛って

十字架を踏み砕いたら きっと往ける





ずっと憧れていた 貴女に

ずっと為りたかった 貴女に





萎れて仔を産むよりも 乾いて永久(とわ)に刻を止めて

若く美しいまま





荊の傷より滴る雫は 夢のような美酒

白い指と黒い服の 静寂のモノクローム

突き破る 艶やかな高潔の極彩色

嗚呼 どうか世界を染めあげて





ずっと憧れていた 貴女に

ずっと為りたかった 貴女に





血のような赤い薔薇で私を飾って

棘を刺して下さい

薔薇のような赤い血で私を飾って

貴女の人形にして下さい





私だけが貴女のお友達

逃がしてあげる この醜悪な世界から

閉じ込めてあげる この甘美な密室に





私以外は見ないで 誰にも触れないで

どんなお喋りも 私は聞いていてあげる





貴女以外は見ないわ 誰にも触れないわ

どんなお喋りも 貴女は聞いていてくれる





貴女だけが私の……

私だけが貴女の……





何も答えないグラスアイ

ただすべてを ずっと私を ずっと貴女を 見ている

























<COMMENT>


1000キリリク作品。
たつみ姫より、「ゴス詩。赤黒い・残酷・毒・ブラック・ダーク・美しい」とのリクエストでした。


そんなわけで、生まれて初めてのゴス詩に挑戦!
毒の無さそうな「毒」にも気付いて頂ければ。
うーん……でもまだまだ毒が足りませんね。もっともっといってしまってもいい位。


「人形」はリクエストには無かったんですが、完全に泉の趣味で。
お人形見るの好きなんですよ。持ってはいませんが。
漫画っぽい顔のものより、少女・少年なんだけど何処か大人びた憂いのある表情をした綺麗系のお人形が好きです。
恋月姫さんとか大野季楽さんとか☆ たつみ姫のミュゼットお嬢様とか☆(「小人のお茶会 写真館」参照)

これを書くにあたって、「イメージ喚起の為」と銘打って、兼ねてより欲しかったお二人の人形写真集を購入しました。
そしたらもう、あまりの美しさに魅入られてしまって、文章が溢れ過ぎて、どんどん逸れていって……。ただでさえ長いのに(苦笑)。
正気の時に逸れた部分はカットしましたが、いつかその文章を使ってまた再挑戦したいです。


あと、「薔薇」も泉の趣味。赤といえば薔薇(&血)でしょう! 
そして、ゴスといえば薔薇でしょう!(私にとっての「ゴス」とは、気高きもの)


「ゴス詩」と聞いて、思い浮かんでしまうのは、勿論あのお方。
猿真似になりはしないか最初は不安だったんですが、創り始めてみると、そんな心配などせずとも女史の世界には到底辿り着けないことに気付きました。
(例えば、「寺山修司書け」って言われても無理なのと同じかと)
そこからはもう伸び伸びと、好き勝手に(笑)。
すっごく楽しかったです!
「泉のゴス詩が見たい」と、機会を与えて下さった姫に感謝♪



リクエストに適っているかどうかいまひとつ不安ですが、親愛なるたつみ姫に捧げます。















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(update:2007/05/10)